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コロナ禍、GWに営業再開「スナックママ」の葛藤 「居場所の提供、不謹慎ですか?」
取材に応じたスナックママ(本人提供)

コロナ禍、GWに営業再開「スナックママ」の葛藤 「居場所の提供、不謹慎ですか?」

新型コロナウイルスの感染拡大阻止のため、4月7日に緊急事態宣言が出た後、遊興施設の多くは、休業を要請される対象となった。横浜市内のあるカラオケスナックは、店内での感染リスクを考慮し、すぐに臨時休業に入ったが、客から「何で閉めたの?」という声が噴出。「今こそ、常連さんの居場所として必要」という判断に至り、18日後に予約制や時短営業で再開をはじめた。迷いながらも、その決断に至った経緯を経営者の女性に聞いた。(ジャーナリスト・高野真吾)

●「お客さんに支えられています」

太陽の光が明るい午後2時半。「カラオケスナック」の文字がある扉の奥では、数人の男女がイスに腰掛けていた。8席あるカウンター席では、お互いが「密」にならないよう間をあけている。その向かい側では、ママの木村幸子さん(44歳・仮名)がなじみ客との会話の間に、お新香や冷ややっこを出したり、焼酎割りを作ったりしていた。客同士も知った仲で、会話も弾む。

東京都が「STAY HOME」を打ち出していた、ゴールデンウイーク中の一コマだ。

飛沫が飛ぶ恐れがあることから、普段使われるカラオケは禁止。布おしぼりもやめ、客ごとに赤ちゃん用のおしり拭き1パックを渡した。酒を混ぜるマドラーは、水の中でなく、焼酎の液体に差し込む。もちろん扉は開け、客が触れるドアノブやカウンターはマメにアルコール消毒し、客にもマメな手洗いを促す。

「少し前の、カラ元気も出ない状態からはいくぶん回復しました。お客さんに支えられていますね」

●2度の離婚後、叔母の店を継ぐことに

木村さんが、カラオケスナックのママになったのは、2018年8月だ。体調を崩した叔母の店を引き継いだ。多いときには週1回ペースで飲みに来ていたが、手伝ったのは、ほんの1、2回。それでも「なくなると聞いた途端、急にもったいない、寂しいと感じてしまった」

当面の運転資金として、友人に100万、公庫から300万円を借金して開店にこぎつけた。スナックママの仕事は水が合っていた。紆余曲折ある人生経験を踏まえ、客の相談にも乗れるからだ。

木村さんは、高校卒業後、美容師見習いとして働いた。1年後、妊娠が発覚し、19歳で結婚するも、数カ月後に流産してしまう。叔母の会社で働き、24歳で無事に長女を出産。その途端、気に入らないことがあると家具を全部ひっくり返すような「マザコン夫」が「この人、心底いらないわとなってしまった(笑)」

25歳で離婚し、今度は叔母が経営していたクラブでホステスをしながら、1人で長女を育てた。

そこで出会った客と再婚し、28歳で長男を出産。しばらくは穏やかな生活が続いたが、2008年のリーマンショック後、不動産関係の仕事をしていた夫が仕事のプレッシャーからおかしくなる。

夫は車の運転中、「ドアから降りたら死ぬんだろうな」とつぶやき、お金も安定して家に入れなくなった。2度目の離婚を決めたころ、叔母のスナックを継ぐことになった。

スナック店内の様子(本人提供) スナック店内の様子(本人提供)

●2月後半から雲行きが怪しくなった

開店当初は、別の仕事もあったため、不定期でしか開けられず、売上は伸びなかった。2019年1月から、日曜以外は店に立つようになると、固定客がついてきた。家賃、光熱費などで、月40万円は固定費として出ていく。2018年はトントンぐらいだったが、春の異動の送別会シーズンとなる2019年3月は大幅な黒字となった。

同年秋にあったラグビーワールドカップの店内での観戦イベントも当たった。このとき、集った客が仲間同士となり、月1回、店で誕生会を開くようになった。スナックらしく、木村さんを中心に小さいが密なコミュニティーができた。

2020年の今年は、経営を安定させるはずだった。2月前半、横浜に寄港したクルーズ船から大量のコロナ患者が発生し、横浜中華街の客足が落ちても、「まったくのよそごとで、『中華街、頑張れ!』と応援していたぐらいでした」

ところが、2月後半ごろから、雲行きが怪しくなる。客ゼロの日があり、かき入れ時の金、土曜日でも挽回しにくくなった。

それでも3月は店を開けていれば、多少なりとも平日は客が来た。40万円までは、遠く届かず、焦りはあったが、4月も続けるつもりでいた。

●臨時休業を決断したが・・・

4月7日に緊急事態宣言が出ると報道されるようになると、心持ちが変わった。その前の週に来店した若い男性が、時折、せき込みながら真っ赤な顔で飲んでいたからだ。話しかけても、ボーっとしていた。カウンターから男性に「コロナじゃないよね!」と冗談を言っていたころの木村さんの、心の余裕はなくなっていた。

「店からコロナ患者を出したくないし、私も感染源になりたくない。開け続けていると、顔を出さなきゃいけないと常連さんに思わせるのも、良くないかもしれない」

8日から臨時休業を決断して、ネットでも告知した。4月は数千円の売上しかなかったが、当時は迷うことはなかった。

しかし、客の反応は、想定とは違った。「何で閉めたの?」と次々と尋ねられたほか、「意外と真面目だね」との感想も寄せられた。確定申告が終わり、時間に余裕ができると、悶々としはじめた。

「常連さんを守るために臨時休業にしたけど、はたしてそうなっているのか。1人で家に居て、居場所がないとなっていないか」

●「コロナ対策して、うちで飲んでもらったほうが安全」

常連客に意向を聞き続け、出した答えが、予約制や時短営業だ。GWの営業時間は、原則午後2時半~午後8時。1日5人までの客が、ネット上でスケジュール調整できるサービス「調整さん」を使って、予約する。飛び入りは入れない。

「店のアイドル」で、週1回、金曜日に来店する84歳の男性が来るときは、ほかの常連客には遠慮してもらい、1対1で接客した。

GW明けにどうするかは決めていないが、午後5時から8時の営業時間で開店できないか探るつもりだ。

今の営業方式では、固定費はまかなえない。金銭面のメリットは少ないが、木村さんの頭の中には、再度の臨時休業はない。

「常連客には飲み場を求め、居酒屋や飲食店を徘徊している方もいます。だとしたら、私が最大限にコロナ対策をして、うちで飲んでもらったほうが安全ではないでしょうか」

そして、こう続けた。

「コロナ禍の今、スナックなんて遊興施設で飲むのは不謹慎、不健全と考えて臨時休業しました。しかし、元気がなく、1人で家飲みするのが嫌になり、不健康になっている方もいます。みんなが思っていることを言い合える居場所やコミュニティーをちょっとの間、提供するのは、そこまで不謹慎でしょうか」

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