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「出張のホテル代は社員の自腹、手当は1日500円」 ブラック企業に法的問題は?
写真はイメージです(kou / PIXTA)

「出張のホテル代は社員の自腹、手当は1日500円」 ブラック企業に法的問題は?

「僕が勤めてる会社、出張先のホテル代が全額個人負担なんだけどヤバくないか?」。あるユーザーがTwitterでこんなツイートをして話題になりました。

ツイートによると、ホテル代が出ないばかりか、出張手当は1日500円だそうです。会社側の言い分は、「出張先で観光させてもらってるんだから」とのこと。これに対し、ユーザーは「ブラック無糖って感じ」とツイートしていました。

弁護士ドットコムにも、同様の相談が複数、寄せられています。ある相談者は、別の県へ4〜5日連続で出張があるものの、会社から宿泊費が出ないために、往復6時間の道のりを毎日、往復しているそうです。そのため、連日のように出発は早朝、帰宅は深夜となり、「非常に厳しい状況」といいます。

なお、産労総合研究所が2017年に発表した「国内・海外出張旅費に関する調査」(上場企業など174社が回答)によると、国内出張の場合、宿泊費の平均支給額は一般社員の場合、8723円だったそうです。また、宿泊出張の日当を支給する企業は91.4%で、平均支給額は一般社員で2222円でした。

Twitterや相談にあったように、必要と思われる宿泊費を会社が認めないことに、法的な問題はないのでしょうか。杉山和也弁護士に聞きました。

●社内規定で出張旅費を従業員の負担にさせることはできない

社内規定で「出張で宿泊費は出さない」と決めておけば、支給しなくても法的には問題ないのでしょうか?

「出張に関連するお金としては、『出張旅費』と『出張手当』があります。『出張旅費』は、出張先で業務を行なうために必要な交通費や宿泊費であり、『出張旅費』を支給する場合は、領収書などを提出して、実際に支払われた実費を精算することが一般的です。

本来、従業員は、自宅から、本来の就労場所まで通勤すべき義務しかないところを、本来の就労場所とは異なる場所で就労させるための費用なので、会社が負担すべき経費であり、社内規定において、これを従業員の負担とすることはできません」

●出張先手当はなんのため?

出張先での食事代はどうでしょうか?

「出張先での食事代については、実態は食費であり、出張の有無にかかわらず、従業員が負担すべきものであるため、取引先の接待のようなケースを除いて、原則として経費にならず、『出張旅費』にも含まれないと考えられています。

『出張手当』は、交通費や宿泊費とは別に、出張に伴って発生する雑費をまかなうためのものですが、そもそも雑費が発生するのか、発生するとしていくらであるのか不明であるため、精算不要とした上で、あらかじめ決められた金額を一律に支給することが一般的です。

『出張旅費』を実費で精算した上で、これとは別に、『出張手当』を支給する会社と、『出張手当』という名目で、あらかじめ決められた金額の範囲内で、交通費や宿泊費も含めて、自由な支出を認める扱いにしている会社があります。

今回の相談は、『出張手当』という名目で、500円を支給するということですが、この金額では、旅費にも満たないことが明らかであり、会社の経費を従業員に負担させていることになるため、違法である可能性が高いでしょう」

●出張費について社内規定がない場合は?

そもそも出張の宿泊費に関する社内規定がなく、上司やこれまでの「慣例」などで宿泊費が出ない場合の問題は?

「『出張旅費』や『出張手当』は、出張に伴って支出された実費の精算であるため、労働の対価ではなく、賃金とは考えられていません。そのため、労働基準法には、『出張旅費』などの条文は存在しておらず、これらの取り扱いは、社内規定で処理されています。

『出張手当』については、実際に支出するか否かわからない雑費を、支出したものとみなして支給するものであるため、これを支給しないことにしても法的な問題はなく、社内規定において、『出張手当』を支給しないこととしている会社もあります。

これに対して、『出張旅費』は、実際に支出することが明らかな会社の経費であるため、これを従業員に負担させることはできません。

社内規定がないために、『慣例』で決められている場合であっても、実際に支出された旅費と宿泊費の金額が妥当な範囲のものである限り、立替分を会社に返還請求することは可能と考えられます」

プロフィール

杉山 和也
杉山 和也(すぎやま かずや)弁護士 弁護士法人鳳和虎ノ門法律事務所
労働事件を中心に、中小企業の法務、相続、離婚に注力。特に、解雇・パワハラ・セクハラ問題について取扱多数。「オーダーメイドの法律事務所」として、一人ひとりの依頼者に寄り添いながら、ぴったりの解決方法を提案することをモットーとしている。

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